ざつがく 雑学2018年06月07日
#88) 師匠と弟子の作品くらべ

 上段は神戸市中央区・大倉山公園に在る伊藤博文銅像台座。下段は国会議事堂の尖塔。いずれも Google Map の航空写真(ほぼ真上から見た図)を転載させてもらった。

 

 前回ブログ#87) で、神戸・大倉山公園の伊藤博文銅像台座と国会議事堂尖塔の意匠がよく似ていることの背景歴史を紹介した。台座の作者は京都帝大工学部建築学科・初代教授・武田五一であり、議事堂尖塔の作者は武田の愛弟子・吉武東里である。上に載せた比較写真で判るように、真上から見たイメージはまことによく似ている。ここには載せないが、側面像にも高い共通性が窺われる。

 中公新書『伊藤博文』の著者、瀧井一博氏は言う。吉武は議事堂を設計するに当たり、師匠がデザインした台座に立つ伊藤博文像を心に描き、議事堂尖塔に伊藤の影を立たせ、国会と不可分の伊藤のイメージを込めたのであろう、と。

 

 愛弟子というので、吉武は京都帝大にて武田の薫陶を受けた、と勝手に解釈していた。しかし、事実は違った。吉武の出自は豊後・国東の士族であり、京都高等工芸学校(現・京都工芸繊維大学)にて武田(父は備後・福山藩士)に師事したという。1907年(明治40)の卒業後は宮内省内匠寮の技手となり、1918年(大正7)に吉武らの設計案が帝國國會議事堂の設計コンペで1等賞に選ばれた。

 吉武は、横浜の「キング、クイーン、ジャック」の3塔で知られる近代名建築のうち「クイーンの塔」、すなわち横浜税関庁舎の設計者としても知られる。