診療(診察・治療)2017年12月17日
#60) 低血糖の話:その3

 血糖値 27 で意識モーローを経験した、と#58に書きました。あのときは普通に注射して普通量の朝食を摂りました。食後2時間ほど経て、思い立って職場のPタイル床の雑巾掛けをやったのです。大汗掻いて頑張っていると、急に低血糖らしき症状に襲われたのです。直ぐに自己測定したら 27 だったというわけ。

 もちろん直ぐにブドウ糖を摂りましたが、あのときは回復するまで人生最大の辛さを味わいました。低血糖に対する極度の嫌悪感はあれ以来です。

 

 雑巾掛けで なぜ低血糖が起こったのか? インスリンには、血液中のブドウ糖を筋肉や肝臓その他の細胞に取り込ませる作用があります。筋肉がブドウ糖を取り込む仕組みは、インスリンだけでなく「ブドウ糖輸送体 GLUT」が併存して成立します。有酸素運動をすると筋肉細胞にGLUTが増えるので、ブドウ糖の取り込みが加速されます。その分、血液中のブドウ糖はどんどん筋肉細胞の中へ移動しますから、血液中のブドウ糖が減る、つまり低血糖が起こるのです。

 ふだん全く運動しないサボり人間が たまに有酸素運動をした結果の出来事だったのです。皆様もお気を付けて!

 

 昔のインスリン(レギュラー・インスリン)は「食事の30分前に注射せよ」、とされていました。ある宴会の開始30分前にトイレで注射してから参加しました。ところが乾杯のスピーチが長引き、何も口に出来ません。そのうち冷や汗ダラダラ、立っているのも辛く…。

 一方、現在の超速効インスリン(ノボラピッド®など、遺伝子組み換え製剤)は打ったら5分で効き始めます。あの辛い辛い経験から、食卓に着いて目の前に食物が出されたことを確認した上で注射することにしています。

 注射部位のアルコール消毒は不要で、ワイシャツの上から腹にプスリと刺して注入します。この方法なら人前に汚い腹をさらす必要も無く、大嫌いな低血糖に陥る心配もありません。

 

 もう15年以上、こういう「消毒なしの、着衣の上から注射」をしていますが、注射部位が化膿したことは一度もありません。もしもインスリン注射をしておられる方は、どうぞ実行してみてください。

 もちろん、自宅では遠慮無く腹を出して注射していますが、その場合も腹のアルコール消毒はしません。ただし、インスリン注射器にディスポ針をセットするとき、針を刺す部分だけは消毒しています(インスリン溶液の汚染を防ぐため)。