診療(診察・治療)2017年09月12日
#47) 「感染による急性炎症にステロイド投与」の是非

キツいキツい咽頭炎がようやく治りました。すごく多量の、黄色い痰が昨日まで出ていました。 ちなみに「のど」を漢字変換すると「咽」と「喉」が出てきます。前者は「のどちんこ」のある辺り、後者は「のどぼとけ」のある辺りです。「耳鼻咽喉科」に両方とも出てきますね。医学用語では咽頭、喉頭と言って区別しています。

 

 前回 #46) の最後に、「感染症による炎症」を抑えるためのステロイド使用の是非について問題提起しました。きょうはそれを論じます。

 

 そもそも炎症とは? 詳細は「炎症―Wikipedia」を参照してください。炎症は人体組織の「破壊と再生」の過程です。古代医学の時代から炎症の四徴候「発赤・発熱・腫脹・疼痛」が言われてきました。

 

 炎症に関わる主体は白血球です。白血球とは、好中球、好酸球、好塩基球、リンパ球、マクロファージ、マスト細胞など、免疫を担当する細胞の総称です。お互いの個数や機能を量的・時間的・空間的に整然と調節するための活性化物質を分泌・放出します。この物質はサイトカインおよび炎症メディエータ(プロスタグランディン、ヒスタミンなど)と呼ばれます。

 

 感染や化学刺激など様々な要因で細胞に傷害が生じた場合、白血球が活動を開始します。まず、侵入した病原体や傷ついた細胞に攻撃を加え、破壊・消化してしまいます。 その破片はきれいに片付けられ、そのあとに細胞が再生し、組織が元通りに修復されます。 もしも元の細胞が再生しにくい場合は、線維細胞からなる結合組織に置換されます。これら「破壊と再生」が完了したら白血球の活動は鎮静化します(急性炎症の終結)。

 一方、何らかの異常で炎症が延々と繰り返される場合は慢性炎症となり、患者を悩ませます。例えば、関節リウマチやSLE(紅斑性狼瘡)などの自己免疫病・膠原病の場合です。

 

 ステロイドは副腎皮質ホルモンとも呼ばれ、人体が備えている生理的物質です。しかし、天然のホルモンよりも強い効果(免疫抑制作用、抗炎症作用)を持つ合成ステロイドが多数開発され、使い分けられています。

 

 感染症による炎症にステロイドを使うと、白血球の活動を抑えてしまうので、結果として病原体を応援することになってしまいます。ゆえに、「ステロイドを感染症には使うな!」というのが医学的常識です。

 

 しかし、炎症反応が強すぎる場合は人体にとって不都合な症状・苦痛が生じます。サイトカイン・システムは殆どの場合、炎症反応を増幅・加速するように出来ています。つまり、人体にとって不利益をもたらす「過剰な炎症」を引き起こす場合が少なくありません。

 こんなときはステロイドの使用が許されるべきだ、と考えます。但し、前提条件があります。「病原体を完全に抑える薬剤治療が出来ている」という条件が必須です。細菌感染の場合は、その細菌に有効な抗生物質を、有効な濃度を維持するような投与量を用いる必要があります。その上でステロイドを使えば、感染症を拡大・増悪させることなく「過剰な炎症」を鎮めることができます。

 

 ウイルス感染には抗生物質が効かないので、ステロイドを使うか否かは大いに悩ましい問題です。しかし、「過剰な炎症」が人体にとって大きな不都合をもたらしている場合はステロイド使用を躊躇すべきではない、と私は考えます。