日々のあれこれ2020年08月23日
#119) 当院はあと1週間で満5歳になります

  今日は二十四節気の「処暑」です。8月7日は「立秋」でしたが、「秋立ちぬ」とは名ばかりで、滋賀県下ではつい先日、記録的(殺人的)な猛暑日がありました。

  昨夜は雷雨があり、寒冷前線が通過したことを想わせました。その後は涼しくなり、久しぶりにエアコンを止めて、扇風機だけで安眠できました。しかし、今日の空は入道雲ばかりで秋空の片鱗もありません。

 

 

もうすぐ開院5周年

  さて、来たる9月1日に当院は満5歳を迎えます。「もう5年も経ってしまったのか」とも思うし、一方では、「何とかつぶれずに5年間を過ごすことができたか」とも思うのです。

  研究歴は長いが臨床経験は乏しい、言わば「駆け出し医者」としてスタートしたのですが、それなりに勉強・修行を重ねて医業に磨きをかけてきたという自負はあります。また、自分の長い研究歴を活かして独創的な・ユニークな治療方針を立て・実践して治療成績を上げてきたという自負もあります。

 

誇れる治療実績 ①: 高血圧症

  とくに高血圧・動脈硬化の治療にかけてはどの専門医にも負けない自信があります。開業医としては珍しく、高アルドステロン性高血圧症が決して珍しくない病気だということを実証してきました。その結果、ただ単に血圧を下げるのが目的ではなく、長い目で見た、最も合理的な治療法(原則はレニン・アンジオテンシン系阻害薬。最近はミネラル受容体拮抗薬をプラス)を選択して実践してきました。

  開業当初は、原発性アルドステロン症の疑いがある患者さんを大学病院など大手病院に紹介するのが常でした。しかし、専門の検査を受けてもらうと、若い患者さんでも手術適応になる事例は少なく、結局は当方で薬物治療を続ける場合が少なくありません。

  しかも、高アルドステロン性高血圧症の治療薬として従来はアルダクトン®(スピロノラクトン)とセララ®(エプレレノン)の2種類しか無かったのですが、新たに、優秀な性能を有するミネブロ®が加わりました。これが極めて優秀な薬剤でありまして、基本的には新薬に飛びつかないことをモットーとする私が、惚れ込んで使用頻度を増やしています。

 

誇れる治療成績 ②: 動脈硬化症

  他の医療機関には無く、当院で好成績を収めているのは動脈硬化です。動脈硬化症の成れの果ては脳梗塞と心筋梗塞と大動脈瘤です。どこの病院でも CAVI や ABI を測定することはできます。いわゆる「血管年齢」の測定です。

  しかし、CAVI値やABI値が悪い人に対して何らかの有効な治療薬を処方しているか?と問えば何もしていません。例えば、コレステロールを下げるとか、有酸素運動を勧めるとか、でも、コレステロール値を下げたからといって動脈硬化が治った、という報告はありません。

  動脈硬化は加齢とともに進行します。これを食い止めることが出来るのは、最強のACE阻害剤トランドラプリルと、おそらくベストARBテルミサルタンの単剤または併用です。これについては拙ブログ・アーカイブ # 92で述べました。これらは抗「高血圧薬」ですが、高血圧を下げるだけにとどまらず、血管壁をしなやかに保つという重要な作用を持っています。これらを用いて好成績を上げています。全国的には他の例がないと思います。

 

誇れる治療成績 ③: 湿疹などの皮膚病

  ステロイドが必要な場合は躊躇せずにステロイドを使います。しかし、皮膚科専門医に永年かかっていても全く治癒しないケースがままあります。ステロイド外用薬(塗り薬)には「最強」から「マイルド」まで5段階があるのです。1)病気の程度を見極めて、その現状に最も合った強さのステロイドを選ぶこと、2)病状が良くなってきたら強さを段階的に弱めていくこと、3)湿疹の重症度に応じてステロイドの強さを上げ下げすること、が必要なのです。強すぎるステロイドを漫然と使っていると、皮膚はペラペラの脆い組織になってしまいます。

  皮膚炎症の程度を見極め、ステロイドの「使い分け」を順守することによって、皮膚科専門医が治せなかった皮膚炎を治した実績は私の誇りとするところです。

  気を付けねばならないのは、カビによる皮膚炎(真菌症、ミズムシ、インキンタムシ、など)や、細菌感染による皮膚炎(トビヒなど)にステロイドを塗ると悪化することです。ステロイドは免疫機能を抑えてしまうので、カビや細菌と闘っている自分の免疫機能を抑え、敵を利することになってしまうのです。カビには抗真菌薬を、トビヒには抗菌剤を塗付する、という大原則を間違えてはいけません。

 

反省すべき重要事項

  この5年間で3~4回くりかえした失敗は、EB(Epstein-Barr) ウイルス感染症による咽頭扁桃炎の患者さんにアモキシシリン(ペニシリン系抗生物質)を誤って処方してしまったことです。これは医師国家試験で「地雷問題」とされているような、絶対に間違えてはならない注意点なのです。

  EBウイルスによる扁桃腺炎は、扁桃腺がパンパンに腫れあがっており、その表面に「白苔」という白い分泌物がベッタリと付着している特徴があります。 しかし、これが食わせ物でして、溶連菌感染による扁桃炎と見た目がよく似ているのです。紛らわしいときは溶連菌を迅速診断する検査キットを用いるのが望ましいのですが、当院には検査キットを用意していませんでした。

  その結果、EBウイルス感染者に対してサワシリン®(アモキシシリン)を処方してしまい、服用開始の翌日か翌々日に身体中に発疹が出て駆け込んでこられる、という失敗がありました。

  私はブドウ球菌や溶連菌など口腔内感染のファーストラインとしてアモキシシリンを使います。だから、EBを誤認したときにも、ついうっかりとアモキシシリンを処方してしまうのです。

  他所のドクターですと、古い薬アモキシシリンを用いることなく、いきなり第3世代経口セフェム系であるフロモックスを処方される場合が大部分です。しかし、Dr. 岩田健太郎(島根医大卒)の抗菌薬の使い方マニュアルによると、第3世代経口セフェムは腸での吸収が極めて悪く、「ほぼウンコ」薬と揶揄されています。

勉強好きな私は、ゆえに、フロモックスなどの第3世代セフェム経口薬を処方する医者はヤブである、勉強不足である、と決めつけています。 

  そんなに偉ぶっても、EBウイルス患者(伝染性単核球症)にアモキシシリンを投与してしまう愚は「笑いモン」でしかありません。今では騙されないように重々注意を払っています。