診療(診察・治療)2020年05月10日
#113) 新型コロナ肺炎への吸入ステロイド:論争の行方

暦のいま:今年は閏四月が挿入される

  立夏(今年は 5/5 でした) も過ぎて、例年ならば青葉の清々しさを感じる候ですが、コロナ禍のせいで薫風を楽しむ風情に陰りが漂います。

 

  今日 5/10 は陰暦四月十八日。約2週間後の 5/23 には新月、つまり朔を迎えますが、その日は陰暦五月一日とはならず、閏四月一日となります。そして次の朔日(陰暦五月一日)は 6/21(夏至)になります。つまり、5/23(閏四月一日)~6/20(閏四月二十九日)までのひと月には「旧五月の中気」である「夏至」が含まれません。

 

  約3年に1回の頻度で「中気」を含まない「陰暦の ひと月」が廻ってきますが、これを「閏月」として挿入することによって、陰暦(月の朔望によるカレンダー)と陽暦(太陽黄経によるカレンダー)とのズレを小さくするべく補正するわけです。今年は閏年(2020)ですが、今年の閏月挿入と重なったのは偶然に過ぎません。なぜなら4年毎の調整【地球公転周期の端数を調整するのが目的】と約3年毎の調整【月の朔望周期29.5日/月×12月=354日/年 と陽暦365日/年とのズレ(11日/年)を調整するのが目的】とは全く別の意味なので。

 

吸入ステロイドを新型コロナ肺炎に用いることの賛否論争

  前回、前々回、前々々回のブログで吸入ステロイド(ICS: Inhaled CorticoSteroids)の早期使用をお勧めしてきました。これは、新型コロナ肺炎(COVID-19)が重症化したため入院したけれども、特異的な治療薬が無く、人工呼吸器やECMO(膜型酸素化装置)を使用するだけで患者の耐久力に頼るしかない、そして、殆どの場合は死を待つより仕方がない、という現状を憂い、ほんの一歩でも快方に向かってもらいたいとの切なる願いを込めての発言です。

 

  他方では、ステロイドは免疫系を抑えるので、ウイルスの排除を遅らせたり、肺炎を悪化させたりする怖れあり、という理由で ICS を用いるべきではない、と主張する専門家も居ます。

 

  最前線の現場で治療に当たっている医師の中には、少しでも可能性があるならICSを使用してみようと考える人が居て、治験が行われている最中です。現在、オルベスコ®だけでなく、シムビコート®の治験も進行中です。つまり、オルベスコ以外のICSも有効かもしれない、という仮説のもとに治験が実施されているのです。妥当な仮説だと思います。

 

  中国での症例検討データを通じて、新型コロナ肺炎(COVID-19)の致死的な合併症として高血圧、糖尿病、心臓病などが挙がっています。一方、リスクが予想される喘息やCOPDの名前がはるか下位に現れるという事実について、妥当な解釈は為されていません。

  

  一般論として、「客観的な証拠(エビデンス)が得られていない現時点では、 ICSの使用を推奨しない」とする意見が大半を占めるようです。最新の『ヨーロッパ呼吸器学雑誌』のHalpin他の総説論文の結論は以下のとおり:1)目下、臨床試験のデータが充分でなく、確かなことは言えない。2)COVID-19に罹る以前からICSを用いていた患者はICSを中断するべきではない。3)COVID-19患者で喘息の診断が確定できない場合は、ICS使用開始に慎重であるべき。となっています。

 

  この総説は、極めて数少ない論文を見直してみて、極めて力の弱い結論を発しています。ですから、あまり困窮している現場の治療には役立つとは思えません。私が主張したいのは、おぼれる者は藁をもつかむ、という気持ちで良いから、安全性の確立しているICSを肺炎早期から使い始めて、肺炎の重症化を阻止すべきだ、という一点です。死にかけている人を黙視するのではなく、そこに到る前段階(間質性肺炎の初期)でICSを充分に効かせれば重篤化を防げるだろうということです。

 

あらためて ICS の早期投与を呼び掛ける

  現に呼吸困難が現れ始め重症化への不安におののいているCOVID-19罹患者に、副作用の不安の少ない ICS を投与することは「良きサマリア人の法」の精神に基づいても許されることだと確信しています。もちろん、薬理学的な経験知に根差す主張であることは論を待ちません。

 

【注】これは仮原稿です。あと少し書き足す予定ですが、骨子はいささかも変わりません。

上記のように仮版でしたが、改訂の時機を逸してしまったので、このままで #113 としておきます(5/28)