診療(診察・治療)2018年02月26日
#70) ACE阻害剤とARBの併用

 結論から先に申します。医者の世界の常識では、1)どちらも高血圧の薬であり、作用が同様なので併用してもあまり意味がない、2)併用によって高カリウム血症という副作用が起こりやすいので併用は避けるべし、とされています。しかし私は、「それぞれの薬が特有の効果を表すので、両者併用は確かな意味を持つ」と考えています。その考えに基づき、日常診療において両者併用を実践しています。決して血圧を下げることだけが目的ではないのです。以下に詳しく説明します。

 

 ACEとは「アンジオテンシン変換酵素」の略称であり、強力な血管収縮物質アンジオテンシンⅡ(以下、AⅡと略します)を作り出す働きをしています。この酵素の働きを抑えるのがACE阻害剤(以下、ACEiと略します)です。つまり、ACEiはAⅡの産生を抑えることによって血圧下降その他の作用(下記)を表します。

 ARBはAⅡ受容体拮抗薬の略称で、AⅡが受容体に結合するのを抑えることによって「様々な効果」を発揮します。ARBが様々な効果を表わすのは、AⅡが多彩な作用を持っているからです。以下に列挙します。

 

 AⅡは、1)血管を収縮させて血圧を上げる、2)ナトリウム貯留ホルモンたるアルドステロンの分泌を促す、3)心肥大や動脈硬化を引き起こす、4)心不全を進行・悪化させる、5)心筋梗塞後の組織変性を悪化させる、など多様な心血管病を悪化させる作用が知られています。

 ARBはAⅡの多彩な作用を抑えることによって、一方、ACEiはAⅡの産生を抑えることによって、高血圧・心不全・動脈硬化など様々な病気に対して薬効を発揮するわけです。

 

 と、ここまでの記述によれば、両薬剤ともにAⅡ絡みで効果を表わすので結果は同様だ、と思いがちです。しかし、大きな差異があるのです。

 先ず、ACEiはAⅡ産生を抑えるだけが仕事ではありません。1)ブラジキニンやサブスタンスPなど炎症に関わる生体内物質の分解を抑える、2)コラーゲンやゼラチンなどを分解する酵素の働きを抑えて過剰な炎症や組織改変を抑える、など広範な作用を表わします。 (つづく)