診療(診察・治療)2020年12月30日
#122) 新型コロナウイルス蔓延の懸念--あらためて吸入ステロイド使用を呼び掛ける

国内パンデミックの脅威

      前回のブログを10月18日付で更新してから早2か月半も経ってしまった。この間、第3波といわれる大流行が東京や大阪などの大都市圏だけでなく全国で大問題となっている。最近(2020/12/20)、国内の感染者数の累計が20万人を超えた。これは検査を受けて陽性が確定した人数なので、実際には無症状で経過している人も含めれば、公表人数の数倍は下らないだろう。つまり、確実に身の回りにウイルスが増えてきていると思われる。
  
      更に一層の懸念が生じている。英国で新型コロナウイルスの変異種が発見され、原種よりも感染力が高まっているという。ウイルスの一般則としては、感染力が高まれば毒性は低くなるはずだが、目下の解析結果によると、毒性は原種と変わらないらしい。最初の発見国である英国にとどまることなく、既に世界中で変異種の感染が確認されている。日本も例外ではない。
      現役の国会議員、それも53歳という若さ、が感染した疑いがあるとして、PCR検査に行く途上で急逝された。ほぼ無症状から突然に死に至るケースも報道されている。非常に怖い状況になってきた。とにかく重症化を防ぐ手立てが求められている。
    

治療薬の期待外れ(国内治験のお粗末な結果)


      予防薬であるワクチンの接種が欧米では始まったが、日本では未だ具体化しない。人類史上初のmRNAワクチンであるが、無視できない頻度で重度のアレルギー反応が出現しているようだ。まだ大規模接種が始まったばかりだが、新たな火種になっている変異種に対しても有効か/否か?は未だ分からない。

      治療薬についても情けない状況であり、八方ふさがりみたいな印象を受ける。安倍前首相が早期実用化を約束し緊急の治験が実行された抗ウイルス薬アビガン®が、治験を終えて国内承認を求めて申請されたものの、審査の結論は「承認見送り」「継続審議」となった。神戸大の岩田教授は、この審査結果を「妥当な判断」と見ている(『コロナはインフルの類なんて寝言を言うな!』、メディカル・トリビューン 2020/12/28)。岩田氏が当該治験計画の最大の誤り(弱点)と指摘しているのは、同治験が「ウイルスの消失」を主な判定基準に設定している点だ。本来は「死亡率の減少」に設定すべきだ、と指摘している。まことにもっともな指摘である。英国のデキサメタゾン治験を範とすべし!!

 

      患者3名に対して有効性が報告されたオルベスコ®(シクレソニド)に関する治験が行われ、良い結果が得られるものと期待されていた。しかし、つい最近(12/23)国立国際医療研究センターが公表した『吸入ステロイド薬シクレソニド(販売名:オルベスコ)の COVID-19 を対象とした特定臨床研究結果速報について』によると、シクレソニドは無効であるばかりか、有害である可能性(肺炎を悪化させる恐れ)さえ示唆されている。副次的な判定基準である「ウイルス量の抑制」についても無効であったという。この結果は既に私が指摘しておいたとおりである。
      オルベスコ®については拙ブログ #111 (2020.03.28) および #112 (2020.05.03)で力説したとおり、オルベスコにこだわる必要は皆無であり、他の吸入ステロイド薬を用いて広く早く治験を展開すべきだと考える。

 

      大きな期待が寄せられていたオルベスコの治験不成功の報を受けて、医学界でも無力さを嘆く声が多いように感じる。しかし、悲観的な結論に至る以前に、国内治験の設計のまずさを認識し、光明を見出すための方策を考え出すことが今こそ求められている。

 

吸入ステロイドで重症化を防ぐ手立てを、あらためて訴える


      オルベスコ®が「ウイルス複製を抑制することによって治療効果を表す」という仮説の誤りは拙ブログで指摘したとおりである。つまり、岩淵らが世界で初めてコロナ臨床3例を救命しえた症例報告において、「オルベスコが実臨床で有効であったのは、オルベスコがウイルス増殖を抑えたからである」などという妄言は一言も言っていない。
      にも拘わらず「オルベスコ®だけが、他の吸入ステロイドと違って、ウイルス増殖抑制作用を持っている」という仮説に しつこく拘泥しているのは国立国際医療研究センターの Matsuyama, S.ら である。彼らの preprint は未だ査読を経ていない。つまり、正式な科学論文として認められていない。この誤った仮説は、岩淵らの先駆的かつ貴重な症例報告を台無しにする、犯罪的な妄言である。

       吸入ステロイドの有効性を確かなものとするために私が強調したいのは次の2点である。
       第1点)吸入ステロイドを発症後4,5日目から約10~14日間使用すること。【理由】吸入ステロイドが有効であるのは、気管支壁などで間質性肺炎が起こり始める、発症後4~5日目から投与開始した場合であろう。この時期に、ウイルスを叩くのではなく、自己の白血球(免疫細胞)の暴走(あるいは過活性化)を抑えてウイルスと妥協する(休戦協定を結ぶ)ことこそ吸入ステロイドの作用機序だろう。投与開始が遅れて既に重症化してしまったらステロイドは無効であるか、または有害にさえなるだろう(既述の、オルベスコの治験みたいに)。

       第2点)抗炎症作用の強い吸入ステロイドを選んで使用すること。【理由】上記のように、オルベスコが効いたのは、ステロイドの持つ抗炎症作用に拠る。決してウイルス増殖抑制作用ではない。ならば、抗炎症作用の強い吸入ステロイドほど強い効果が期待できる。
       拙ブログ #112) では幾つもの吸入ステロイド剤の名前を挙げたが、私がひとりの喘息患者として優れた治療効果を実感しているのはレルベア®である。これはステロイド(フルチカゾン)のフラン・カルボン酸エステルという薬物分子設計のおかげで、1日1回の吸入で確実に24時間の持続効果を期待できる。私はレルベア®に切り替えて以降、いちども喘息発作(増悪)を経験していない。私のふだんの毎日1回の使用量は 100μg であるが、「コロナの重症化阻止の目的」には毎日1回 200μg のレルベア® 吸入が有効であろう、と予測している。ちなみに、メーカーであるグラクソ・スミス・クライン(gsk)社との利害関係(利益相反 コンフリクト・オブ・インタレスト COI)はありません。私が喘息患者として実用した上での印象です。

 以上の提言が広く世界中に受け入れられ、現在の惨状を食い止めることができるよう祈っています。今一度 Twitter で世界に向けて発信するつもりです(苦手なんですが...)