診療(診察・治療)2018年03月07日
#71) ACE阻害剤とARBの併用(続き)

 もう一つ、理解を複雑にさせるのが人体のしくみの複雑さです。実は、体内でAⅡを作るのはACEだけではないのです。心臓にも血管にもキマーゼという酵素があって、とくに心不全を起こしている心臓などに於いてキマーゼの量が増え、その結果、AⅡの産生量が増えています。しかも、ACEiはキマーゼには全く効かないので、キマーゼによるAⅡの産生を止めることはできません。キマーゼの働きを止める薬は未だ臨床実用化されていません。

 ゆえに、キマーゼの作るAⅡの作用を抑えようと思ったらARBを使わざるを得ません。つまり、ACEiとARBを併用することはAⅡのブロックをより強固にするという点で意味があります。

 

 しかし、AⅡを中軸に据えた場合、「薬が表わす多彩な作用」といえども、AⅡ作用の多様性に基づくだけに留まります。

 前回 #70の最後に述べたように、ACEiはACEの持つ多様性のおかげで、AⅡとは無関係の作用を表わし得るのです。つまり、ACEiの薬効のかなりの部分は、ARBが代理をつとめることはできないのです。

 ここまで述べてくれば、ACEiとARBとの併用に意味があることを納得していただけるでしょう。両剤併用で気を付けるべき点は高カリウム血症です。定期的に血液検査して血清カリウム値の上昇傾向が観られる場合には、サイアザイド(チアジド)系利尿薬を併せて飲んでもらえばOKです。

 

 ACEiにもARBにも多数の競合品があります。その中で性能が特に優れていると思われるのは、ACEiの中ではトランドラプリル(商品名:オドリック®)、ARBの中ではテルミサルタン(商品名:ミカルディス®)でしょう。

 どちらも人体組織に浸透しやすく、かつ、組織内に長く留まって薬効が持続的である、という優れた特徴を持っています。その特徴は、PubChem(パブケム)という米国国立医学図書館のデータベースを解析することによって明らかです。

 昨年まではミカルディス®の特許期間が残っていたので薬価の高いことが難点でしたが、今はジェネリックが利用できます。トランドラプリルは発売から20年以上たっており、ジェネリック製品があります。(先発品メーカーのサノフィは撤退しましたが、日本新薬のオドリック®は頑張ってくれています)