診療(診察・治療)2020年06月27日
#115) ステロイドの有効性が証明された!

写真左:デキサメタゾンが有効であったことを報じる英国NIHR(国立衛生研)ニュース。

写真右:#114話で触れた、梅雨どきの新緑に映える白い花。庭のヤマアジサイ。

 

6月26日、日本全国で新規感染者が105人も

  緊急事態宣言が解除されてのちも首都圏を中心に新たな感染者の発生が続いている。商業施設の混雑ぶりも元に戻ったようで、マスクもせず無防備な人も少なからず見受けられる。油断大敵、手洗い励行。

  かと思えば、会社などでは未だに熱が出ただけで大騒ぎ。新型コロナ騒ぎ以前なら普通に出勤していたであろう微熱でも出勤停止になるらしい。熱があれば休んでおけばいいのは道理だが、皆さん新型コロナを恐れて過敏になっている。医療機関受診の混乱も今なお続いている。感染者に対する差別や偏見も後を絶たない。

  これほど過剰反応が止まないのは、重症化し始めたら急激に悪化し生命を奪われかねないからだろう。米国製の抗ウイルス薬レムデシビル(商品名 ベクルリー)は特例の速さで国内承認されたが、さほど劇的に効くわけではなさそうだ。 期待されていた国産抗ウイルス薬アビガン(一般名 ファビピラビル)は治験につまづき、承認は大きく遅れるようだ。吸入ステロイド・オルベスコ(一般名 シクレソニド)も有効らしいが治験の最終結論には至っていない。

  特効薬が無い、こんな状況では人々の不安が解消するわけがない。世界中が有効な治療薬の発見、開発に躍起となっている。そんな中、有効性を実証したとビッグニュースが発せられた。

 

英国オクスフォード大学のグループが発表。ステロイドが有効と!

  去る6月16日、オクスフォード大学を中心とする英国内の医療機関グループが、 "RECOVERY" を名乗るランダム化比較試験(総エントリー患者数 11,500超)を行い、ステロイド剤のひとつデキサメタゾンの少量が新型コロナ肺炎(COVID-19)患者の死亡率を 1/3~1/5 だけ下げたことを発表した(写真左の、下に半分だけ見えているもの)。

  デキサメタゾンは1日1回 6 mg を内服または静脈注射で、10日間にわたって投与した。デキサメタゾンを投与された患者は 2104人。デキサメタゾンを投与せず酸素吸入など一般的な治療のみの対照群 4321人と比較した。

  結果、デキサメタゾン投与された人工呼吸器装着群の死亡率は、対照群のそれ(41%)より1/3だけ低かった。また、デキサメタゾン投与された酸素吸入患者群の死亡率は、対照群の死亡率 (25%) より 1/5 だけ低かった。人工呼吸や酸素吸入などの呼吸補助療法を受けなかった患者に於いては、デキサメタゾンの有効性は証明できなかった。

  この試験のスポンサーである英国NIHRは、そのニュース(写真左の、大きな見出しの記事)には「死亡率を下げるのに成功した初の薬剤」として大々的に報じている。「1/3~1/5 に激減させたのではなく、1/3~1/5 だけ下げただけなのに何と大袈裟な!?」と思われるかもしれないけれど、ランダム化比較試験で有意差を証明したということは、それほどの意味を持つのです。  現に、デキサメタゾンやその他のステロイドの関連株式市況は湧いているらしい。

 

薬は投与量、投与期間、投与タイミングが大切

  上述のように、1/3 や 1/5 だけ下げたなんて「みみっちい‼」とお思いでしょう。正直なところ、私もそう思います。デキサメタゾンを初めとするステロイド剤が効くのは確かだと思います。これは、わがブログで今年の 2/27 (#110) から再三再四 述べてきたことです。

  薬理学者としての経験から言わせてもらうと、どんなに良い薬でも投与量が少な過ぎたら効きません。投与のタイミングを間違えても効きません。投与期間が短すぎても効きません。病気の経過の時間軸と、薬の有効な濃度(あるいは体内量)との掛け算というか、最適な「投与ウインドウ」というものがあるのです。この「窓」を探し出す地道な努力が必要なのです。

  だから、アビガンの効果が「それほどでない」としても簡単にあきらめてはいけません。しぶとく食らいついて離さないことが肝要です。理論的に効くはずの薬が効かないのは何か理由があります。「窓」がずれていることが多いのです。

 

死亡率をほぼゼロにできたら、COVIDも普通のインフルなみに

  この冬に流行ったインフルは約9年前の新型インフルだそうです。初登場の頃は騒がれても、いまや普通のインフルエンザとして扱われています。新型コロナウイルスも、現在は「二類」に分類されているから、感染者は隔離されねばならないのです。重症化を防ぎ、死亡率をほぼゼロにする薬が(その「窓」情報を含めて)確立されたなら、たいして恐れる必要はなくなります。早く「五類」感染症に指定変更が為され、普通のインフル並みに扱われることを切に望んでいます。

  私が提唱している吸入ステロイドも適切な「窓」を見つけることが出来れば、世界の救世主になれるはずです。いまのところ私の推測では、発症して4~5日目から吸入開始。1回の使用量は通常の喘息用量の2倍くらい。投与期間は約2週間、と考えています。これで重症化を食い止めることができれば、恐れるに足らずです。

  くどいですが、有効なのはオルベスコだけではありません。オルベスコだけが有するとされる「抗ウイルス作用」が実際に患者さんで証明されたわけでは全然ありません(#111 の議論を参照)。その誤解(誤った仮説)が国内治験だけでなく、世界への普及を妨げています。#112) で述べた全ての吸入薬が有効なはずです。